理外の理
りがいのり
「『貴方が居ない世界になど興味がないわ』って言われたんですけどねィ」
それはまた熱烈だな。どうでもよくて適当に気に流す。
こちとら誰かのせいで書類が山積みで人の恋路の話なんて聞いてやるつもりなんざ欠片も
ないのだ。
「なーんか意味わかりませんぜ」
そうだな、頷きもせず返す。
「俺の何を知ってるってんでしょうねィ。たかだか会ってちょっと話したくらいで」
ふーん、それだけの相手にそこまで言われたのか。そらまた面倒な。
つーか本当はそれだけじゃないんじゃねーの。
「失礼ですぜ、誰かと違って俺は品性方向なんでさァ」
よくそんな四字熟語しってたな、と書類に印鑑を押しつつ答えてやる。
「土方さん、アンタはそんな事言う気持ちわかりますかィ?」
わからんな、と正直に答えてやる。
「うわー、即答最低」
お前さっき意味わからないって言ったくせにと新たな書類にとりかかりつつ言ってやる。
「ヘイ、全く意味わかりません」
何だそれは、人の事言えねぇじゃねえかよって返す。
「だっておかしくないですか?」
何かだ、と記載例を見事に無視した文字に訂正線を入れてやる。
「そんな大事な人が居なくなったら、俺だったら」
おら、訂正印かせと手で示すと大人しく差し出された。俺に押させる気かよ。せめて自分で
押せよとトントンと場所を示す。
「…貴方が居ない世界なら、世界なんざどうでもいい。自分がいらない」
あーハイハイ良く出来ました、ポンと承認印を押して書類を返してやる。
「で、コレ何ですかィ」
ん、お前の休暇届。
「…何で?」
せっかくもぎ取ってやったのに喜ばないのかよ。お前休みくれって言ってたじゃねーか。
「いやまあ確かに言いましたけどね」
次の書類の前に一服しようと煙草に手を伸ばす。
「アレ、これ2枚ありますぜィ」
可哀想に耄碌してきちゃったんですねィ、俺が副長の座を替わってやりましょうかって
ウザく言い寄る総梧をキレイに無視。
近藤さんも暫く休んでなかったからな。一緒に休んでもらうからお前護衛ね。
「ソレ、休みって言わねーんじゃねぇですかィ」
大丈夫だ、他に護衛はつけないから。煙草をくわえつつ、火を探す。
「…例のマヨライターならさっきその辺の書類にまみれてた」
ああ、悪いなってライターを取り出し、火をつける。珍しく灰皿まで差し出してきやがる。
明日は雨か。
「アンタとことん失礼ですね。じゃあ俺はもう寝ますんでお仕事大好きな副長様は
書類にまみれて幸せな夜を過ごしてくだせぇよ」
お前も大概失礼じゃねぇか。
「聞こえませんね」
襖に手をかけた総梧が振り返らずに言う。
「でもアンタ、俺と同類でしょうが」
1番大事な物が無くなった世界なんて。
肺から深く息を吐き出した俺はニヤリと口元だけで笑う。
「まあな」
返事を聞かず、ご機嫌な後姿を最後に襖は閉じられた。